その一杯が最高になるのであれば、手前で口にする料理の良し悪しは問わない。つまり、後で旨いコーヒーを飲みたいが為だけに、僕はいつもその不味いナポリタンを一生懸命食うのだ。そういう意味言うなら、ここのランチセットの組み合わせは限りなく奇蹟に近い。そしてこんなくだらない事を力説したがっている僕自身もまた、恐らく奇蹟的に馬鹿だ。
  すっかり満足して店を後にした僕は、その奇蹟的な馬鹿面を引っ提げたまま、ぶらりぶらりと街を歩く。やけに長い赤信号に焦れることもなく、急いでいる人にポジションを譲ることもなく、無意味に最前列を陣取って佇む。僕の後ろに気配が一人、また一人と増えていくのを感じる。対岸の人垣がビルドアップされてゆくのをサングラス越しに眺める。外回りの営業マン、就職活動の女子大生、買い物帰りの老婆、河岸を変えようとするビラ配り、どう見ても成功しなさそうなギタリスト・・・彼ら一人一人の表情が、離れたこちら側からでもはっきりと見て取れる。何てこともない景色が普段よりもゆっくりと鮮明に映る。信号が変わるや否や一斉に動き出す後ろの群れ。完全に出遅れた僕。いい、いい。好きなだけ追い抜いてくれればいい。こっちは向こうから入れ替わりでやって来る新しい群れを、右か?いや左か?
今度は右か?なんて考えながらユラユラ交わすので精一杯だ。この横断歩道は何処まで続くの?そんな他愛も無い瞬間に、実感し得ない永遠を少しだけ垣間見る。
それだけ、今日という日が僕にとって美しい一日ということだ。
  こんな素敵な日を一人で過ごすのは流石に勿体無いな、と思った矢先に、震える右ポケットから携帯を取り出す。"LAST NIGHT CHANGE IT ALL"のループがけたたましい。間抜けにも自分で設定した筈の着信音に自分で驚く。繋がった回線の向こうから、ピアノやスクラッチの音色が聴こえる。続いて沸き起こる謎の雄叫びにかき消され、肝心な会話の内容が殆ど聞き取れない。
「今さあ、****で全員集まって×××でさぁー、超イイ感じ◎◎◎◎なんだよね!!ともかく来い!じゃね。」
・・・喋るだけ喋って勝手に切るなよ馬鹿野郎。今何て言った?


2:20PM ―A.Y.Boogaloo
 あの連中はどうやら、こんな時間からすっかりハウスパーティーのモードらしい。毎日ソレばっかりじゃんよ・・・と半ば呆れつつも、この足とアホ面は確実にそこへと向かう。丘の上の庭付き一軒屋。音が出せるから、という理由でそこを借りてるあの連中は、それをいい事に毎日ボリュームの自由を満喫している。そう言う自分も週に4回はその自由を享受する一人なのだが、ともかくそこに出入りする回数だけでもう充分元が取れてるんじゃないかというくらい、音量をパンプアップしまくっている。
  ラウダーで合宿のような日々。そしてかろうじて女人禁制。とは言え誰一人それを守ってないし、そして咎める人間もまた誰一人としていない。ルールは寧ろ破られる為にある。自分達で決まりごとを作った事自体に満足して、それを実際に守る段階にまで至ってないというユルさ。ロクデナシ達が集う必然はそこから生まれている。



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