自販機でガコンと買った缶コーヒーを二、三度振りながら、夕焼けの空気の中をゆったりと歩き出す。
「缶コーヒーってマズいよねぇ。もちっと頑張れメーカー!って感じ。」
「なら買うなよ!って感じもするけど?」
「何故か買っちゃうんだよね・・・一日五本とか六本とかさぁ。ヤベぇよ。完全にカフェイン漬け。でも別に効かないしね。ただ飲んでるだけ。」
  目の前に構える黒塗りの重い扉を押し開ける。地下へと伸びる螺旋状の階段を降り、フロアの方に目を遣ると、キッズ達のウェーヴの向こう側に見える小高いステージの上で、件の二人が忙しなく動き回っているのが見て取れた。三台のターンテーブルと二台のミキサー。スクラッチをスクラッチで彩り、額をつたう汗を拭いながら、数十通りものレパートリーを複雑に組み合わせてパーティーをどんどんロックしてゆく。
  二人のコンビーネーションを見ていると、時に強い嫉妬のような感じを覚える場合がある。
実際のところ彼らとは感性を共有し合うような近い間柄だ。であると同時に僕は彼らをいつも最前列の特等席で見守るような、
熱狂的なファンの一人でもある訳だから・・・つまり自分の周囲にいる才気溢れる連中が、やりたくても自分には出来ないような事を形にしてくれるのを目の当たりにして、思わず高揚してしまうような居心地の良くない状況は確実にある。それは否定しない。しかし一方で、自分には備わっていないその才能に対して一抹の寂しさと猛烈な劣等感を抱いている。それもまた事実だ。その相反する二つの感情が、隠し切れない自分の弱さと、それを決して認めたくない自分の闘争心のようなものを、より一層くっきりと浮かび上がらせる。結局のところ、ヤツらがやるなら自分も負けずに何かをやるしかないのだ。
  ステージの上の彼らが浮かべる渋い表情を見逃さない僕は、その箱のPA担当と思しき醤油顔に小走りで近寄り、関係者面で偉そうにケチを付ける。
「向かって左側のモニタースピーカーをケアしてやって下さい。」
醤油顔は明らかに(お前は誰だよ?)と訝しげに視線を返してきたが、満面の笑顔で軽くそれをあしらいながら、夕方の空気と缶コーヒーを求めて僕は再び外に出た。


6:10PM ―Breaking Point
近い距離感にある人間から受ける刺激というのは、時として外からの刺激以上に訴え掛ける力を持つ。昔から鉄は熱い内に叩けと言う。だからという訳では無いけども、ヤツらのターンテーブル捌きから受けたこの刺激は、一刻も早く64個のパッドに叩き付けるべきだ。そう考えた僕らは再度丘の上のクリブへと急ぐ。



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