7:20AM
―Asanova  |
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サラダが食べたい。そう思った僕はブロッコリーを程よい大きさにちぎり、裏返しのフリスビーに向けて放り投げてゆく。開封もされずに転がっていたオレンジ色の円盤は、結局一度も大空に弧を描かかず終いだ。今朝の公園にしたってフリスビーで遊ぶにはちょっと無理があるし、せいぜい電線に当たって興ざめしてしまうのが関の山だ。都会の生活の都合でで部屋の片隅に転がるしかないのなら、我が家のサラダボールとして日々活躍してくれた方がよっぽどマシじゃないか。
他にも何かあったような・・・?という気持ちに駆られた僕はクローゼットへと立ち上がり、軽く軋ませながら左右へと開く。それにしても、模様替えとか部屋掘りだとかいった衝動は、何でいつもこんな変なタイミングで沸くんだろう?ある筈もない答えを探しながら、中を照らす蛍光灯やアルミ箔、そして回り続ける小さな扇風機、それらが全て順調である事をチェックした後、僕はその下の段から茶色い藤籠を引き出す。
ペットボトルの蓋に立つ小さなR2D2だったり、紐が絡まったままのヨーヨーだったり、主を見失ったモビルスーツの盾だったり。藤籠の中はさながらオモチャの海のジオラマだ。海底に潜った僕の右手はそこにビロードの筒を探り当て、傷つけないよう慎重にサルベージしてゆく。ミネラルウオーターを注ぐと、カーテンの隙間から射す朝日を浴びたそれは玉虫色に輝いた。 |
ひとしきり色んな角度から堪能した僕はレコード棚の前に立ち、顎を撫でながら今朝の一枚を選ぶ。
ジャケットの右下から滑り落ちた中身を左のターンテーブルに乗せ、右手で針を落とす。まるで熟練のピザ職人にでもなったかのようなその自慢げな動きを他人に見られたら、あまりの淀みの無さを笑われてしまうのかもしれない。でもそんな瑣末なシチュエーションこそが、自分の事を好きだと実感出来る数少ない瞬間だったりもする。僕は前の手でもう一度顎を撫で回し後ろ手でソファーの肘掛けを探りながら、男の美学と単なる自意識過剰とを都合良く混同する。それが完全に自分の勘違いだったとしても構わない。
どん、とソファーに全身を任せると、太いベースラインが両耳に流れ込んで来る。朝からガソリンは満タンだ。もうそろそろこの娘を起こさないと。
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8:00AM
―Sunshine Hair  |
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すっかりTVに釘付けになっている僕の目の前で、色気を感じさせない下着姿がせわしく動き回る。タイムリミットが近いらしい。なんで起こしてくれなかったの?!という八つあたりをいち早く予想した僕は、部屋を横切って逃げるように晴れたベランダに出る。
背中越しに聞いた去り際の挨拶に、振り返りもせずに「行ってらっしゃい。」と応えたのかどうか我ながら定かじゃないけども、ベランダの手摺りと手摺りの間を見降ろすと、黒いスーツ姿が勢いよく飛び出しながら、時折こちらを振り返って手を振るのが確かに見えた。
両の手のひらの内側で煙草に火を付け、澄み切った空に向かって大きく吐き出す。欄干に括り付けた空缶に吸殻を押し込み、僕はしばらく表通りを、厳密に言うと表通りを颯爽と歩いてゆく女の子達を、ぼんやりと眺めておく事にした。あのビロードと同じように、朝の風になびく彼女達の長い髪が太陽を浴びて輝いている。世界中の可愛いサンシャイン・ヘア達を怒らせた挙句、終いにはその子達から追い回される、という楽しい妄想を抱きながら僕は、事故のような昨晩の出来事をすっかり忘却の彼方へと追いやってしまっていた。 |
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