10:20AM ―Going, Going, Gone 視聴する
背中一面でソファーの包容力に甘える贅沢な時間を、友人が何年か前に作ったミックスCDを聴きながら過ごす。寝不足のツケがここぞとばかりに回ってくる中で、僕は夢を見た。
  僕はステージの中央奥に座っていて、目の前にはピカピカのドラムキットが整然と並んでいる。恐る恐るペダルを踏むと、バスドラが小さくトンッと鳴った。ついでにスネアも叩いてみる。音の欠片が弾け飛ぶようなアタック。夢を見ている最中にそれが夢の中であると自覚する、というのはよくある事だが、音色の楽しさがそんな余計な意識さえも遠くへと追いやる。取り憑かれたかのように僕は何度も、何度もペダルを踏む。もう少し強く、もう一回弱く、今度は思い切り。へったくれもないリズムでハットを刻み、出来もしないのに拍の裏でスネアを叩く。大きく息を吸い込み、吐くと同時にシンバルを3回連打したところで開き直る。それが錯覚で、しかも夢の中での話だとしても、何となく自分が?UESTLOVEにでもなったような気がしてきたのだ。さあ、何を叩く?"BIG BEAT"か"NEW DAY"?それともやっぱり"IMPEACH"の、あのタメの効いた後ノリにでも挑戦してみるか?
  頭の中からメトロノームが流れ出す。僕はBPMを勝手に95に合わせてハットを8分で刻み、グリッドの頭にキックを一拍だけ放り込んでみる。違うな、頭は2つだな、スネアはどうする?2拍4拍の間に小さいのを入れたいな、などとやってる内に僕の脳内シーケンスが輪郭を帯びてきた。ドンドン・カン・ドッ・・カドン・カドン・・・そうか、今自分はこのパターンが叩きたかったのか、と悟る。
  "WAH WAH MAN"のリズムをひたすらにキープする僕。その目前に広がるステージに、次々とマイクのエンターテイナー達が飛び入りしてくるのが見える。DOUG E.FRESHが「HERE WE GO,COME ON!」と煽ると、後ろからSLICK RICK達GET FRESH CREWが「COME ON!!」とフォローする。ED TOWNSENDが「I WANNA KNOW...」と切り出すと、彼のゴスペル・クアイアが「WHERE DID THOSE SIGNS GO?」と続きを問い掛ける。
急にトーンダウンした彼らの視線が、ゆっくりと僕に注がれるのを感じる。僕がリズムをキープしたまま、わざと手数を減らしてみると、全体の空気が大きく前後に首を振るのが分かる。キックとスネアの狭間に、汗がしたたり落ちる感覚。バンマスのEDと目を合わせながら、じっくりとグリッド8つ分を引っ張った後、今度は逆に手数を増やしていく。目には見えない何かが、真っ直ぐと自分に注がれていくのを感じる。瞬時に頭の中を無数のドラム・シーケンスが飛び交い、体中を貫く。スティックを振りかざす両腕とペダルをストンプする両足の筋肉が躍動する。自分がまるで自分では無いような感覚、そしてそれを自分で止めることすらままならない。